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二回目

先週21日に、「平成25年度神戸大学附属中等教育学校授業研究会」にて指導助言者として参加しました。毎度ですが、指導も助言もできない人間にそのラベルを貼るのは本意ではありませんが、授業を見てちゃちゃを入れるという立場であると捉えておりますので、そういうことをしました。

前回の11月末を経て、年末・年を越してから数回、授業を見させていただき、前の週にも見てはお話を重ねてきました。私の方の立ち位置はあまり変えることなく、「インプットを確保しつつ、学年間の関連を持たせる・筋を通す」ことを意図しつつのコメントしておりました。ま、うまくできたかどうかはまた別問題なのですが…。

それにしても、このような外の立場で、授業について何か言う、というものは大変に難しく、それでいてとても面白いものです。もっと先生方に役立つことを言いたい、したい、と思うのだけど、干渉になってもいけないし、そもそも役立つことを言ったりしたりできてるのか、と言われると…(泣)となってしまう。

ともかく、よい経験をさせてもらいました。続けてお声を掛けてもらえるよう、勉強を続けたいと思います。

【研究メモ】Murphy (2014)

Murphy, J. M. (2014). Intelligible, comprehensible, non-native models in ESL/EFL pronunciation teaching. System, 42, 258-269.

こちらの概要を。他所にちぎっては投げしたものをつなげておきます。

この論文は,non-nativeの英語についてもモデルとして扱えるのではないか?とのことから,映画俳優のハビエルバルデムの出演したインタビュー番組を視聴を34人の教育関係者(全員いわゆるNS)に依頼,質問紙調査を行ったものです。

質問紙には,明瞭性・理解性・アクセントの度合いなどを5段階のリカートで尋ねるもの(Derwing & Munro 1995らへんのがベース)に加え,表情,ペース,更には語末についてや分節音の誤りなどについても尋ねる項目もありました。教育関係者に尋ねていることもあり、thought group,tone,intonation,prominenceなどの音声学用語なども項目には含まれていました。

結果としては,端的に言うと「non-nativeのモデルの一つとしてのバルデムいけるやん」ってとこに落ち着きました。明瞭性や理解性に貢献する要因としては,内容やパラ言語的特徴に加え,thought groupが確立していること,プロソディ要素の適切な使用,ペースなどが挙げられました。対照強勢や語末が不明瞭であること,分節音の誤りなどが,バルデムの発話をnon-nativeたらしめているとの回答を得た,と報告しています。

今後の課題としては、こういう事例を積み重ねていったらいいんでないの,とか,今回はNSが聞いたけどnon-NSが聞くパターンもいるよね,あたりとなりました。モデルとなりえるもの、として、サッカー選手のアンリや日本からは渡辺謙が参考情報としてあげられていました。

読んでみての問題点としては、質問項目に目がいきました。明瞭性や理解性,訛りの項目は,Derwing & Munro らのものを参考にしているとは言え,”I understood everything Bardem had to say.” に対してagree/disagree で明瞭性を尋ねてたりと,この辺まだまだ課題は多そう。

明瞭性・理解性といった概念が恣意的に記述されているというか、共通理解を得た上で、構成概念化されていないな、という印象です。これについては拙論でもまだ検討が必要であると述べているのですが、現在もそうなのかと認識を新たにしました。

それにしても、論文でハビエルバルデムの名前が出て、しかも、その音声を評定するという課題が出てくるとは…。それこそ、追試で、渡辺謙や本田選手(入団会見してましたね)の英語について調査を行うこともできますね…。

2013年の振り返り(追加)

2013年の振り返りで追加を。

後期に入って,11月末に開催された,附属中等教育学校での国語科と英語科との共同での研究会に,指導助言者として参加しました。「指導助言」はできはしないのですが,そのようなラベルが貼られているだけで,私としては,先生方と一緒に考えて,何か外からの目で言えること,何かしらのきっかけづくりになることができれば,と思って参加しました。

かといって,11月末の研究授業を見て,何やらコメントを…というのも自分としては納得できませんでしたので,無理を言って,可能な限り授業をたくさん見させていただくことにしました。たくさんと言っても結局双方の都合が合うタイミングで,なのでそれこそ月に2,3回というところなのですが,授業を見ては話を重ねていきました。

全体のテーマとしては「リスニングのインプットをどう増やしていくか」ということでしたので,各学年において筋を通しつつ,学年間でどう一本背骨を作っていくかというところを考えようと努力してみました。

私にとっては(そのネーミングはともかくとして)「指導助言」者は初体験でしたので,よい経験をしました。そして,私自身が一番,授業を見て,勉強をすることができました。もっといろいろと感じたことを書きたいのですが,まだまだ整理されていないので,今後追記していきたいと思います。

2013年の振り返り

2013年も残すところ数日となりました。恒例の(って昨年してないけど)「今年の振り返り」をしてみたいと思います。観点は以下の通り(で恒例なんですよ,繰り返しますが)。

1) 授業、2) 研究、3) センター内業務・学内業務、4) 家族、5) 趣味

1) 授業

前期のリーディングが形としては結構機能したと思ったので,後期に別のクラスでやってみるといまひとつ機能しなかったり…。ライティングはがんばって書いてもらって,個別でコメントを返すことができている点は(私的には)収穫。目に見えて文章が厚みを増すのを確認できるのは嬉しい。
オーラルの方は前期に頑張っている姿をよく見れたので似たような形を後期にもってきた。後期のオーラルは人数が少なかったので,その分目が行き届いてとても良い。最後の発表をがんばって欲しい。
アドバンストは,こじんまりしたサイズと,今年から採用したテキストがコンパクトで良かったかな。あとは教室の感じがよいのもいいかも。もっとがっつり厳しくやってもいいのかもしれないけど。

2) 研究
自分自身はどうだったかはよく分からないけど,いろいろあったようには思う。いろんなプロジェクトに参加させてもらって何かをやっているっていう感じ。

音声関係

a)プロソディ的てがかりと知覚・産出の関係
こちらのプロジェクトは,昨年度にデータを取ったものを分析をし,1月にNINJALでのICPP2013のポスター発表の第3筆者に,10月にJALTで口頭発表を行うことができた。
b)外国語訛りの知覚への影響
こちらのプロジェクトでは,私は足をひっぱりまくりなのだけど,代表者のリーダーシップのもと,音声の明瞭性・理解性あたりで少し情報提供をした。2014年1月頭に代表者がHICEで口頭発表を行う予定。もう少し貢献しないといけないのだけど…。
c)プロソディの指導に関して
これが本分というか,やりたいことなんだけど,これで一応科研を申請してみている。通りますように…。

語用論関係
a)語用論的意識科研
長引いていたPLL13がようやく日の目をみたのは嬉しいこと。ただ,この共同研究は残念ながら頓挫してしまった。昨年の夏の発表を,データを増やして検討しようという方針を3月に立てて,今年の夏にもっていけるかと画策したが,うまくいかず。最終年度ということもあり,それをなんとか形にしたい。
b)ポライトネス関係
プロジェクトに参加させていただくことになった。コーパスから表現を拾い上げていく作業をしていく中で,また,話し合いを重ねるにつれ,少しずつ具体的になっていっているような感じはある。

学会関係
関西英語教育学会では,今年もいろいろとお手伝いをさせていただいた。最近はつぶやきで中継をする係みたいになっていなくもない(苦笑)。

あと,今年も査読をいくつかさせて頂いた。よい論文になりますようにという願いを持って臨んではいるのだけど,難しいなぁ。

3) センター内業務・学内業務

あんまりちゃんとできなかったように思う。いろいろ後手後手になっている。もう少し信頼を得られるようにはしたい。

4) 家族・など
娘が1歳を迎え,息子は6歳に。二人とも,怪我をしたり,病気をしたり。当たり前と言えば当たり前なのだけど,ぶんぶんと振り回されたなぁ…。それでも,今元気に過ごしているのを目の当たりにできるのは幸せなこと。また今年も振り回されるんだろうなぁ…。でも,できるだけ健康でいて下さいね。

とある頭を悩ませてきた件は,形の上では決着したものの,私の中ではモヤモヤが募る一方。ある意味予想通りの展開だったりもしたが,やはりきちんとけじめをつけきれていないとの思いが強い。こういうことはあるんだけど,事の進め方ややり方に憤りを感じている訳で。

5) 趣味
何が趣味だったのかなぁ…。映画は見れてないなぁ。数本で,DVDが大量に積観の状態。音楽はここへ来ていろいろ雑食に聴いてはいるかな。NZのアーティストが豊作の今年。

【研究メモ】JALT2013での発表(10月28日)

ずいぶん前になりますが,JALT Kobeにて “Pereption of prosodic cues by Japanese EFL learners” と題した共同研究の発表を行いました。

発表時のスライドを以下に置いておきます。よろしければ覧ください。

【研究メモ】discourse intonation

応用言語学辞典のエントリーからdiscourse intonationの項目をピックアップ。

Pickering, L. (2013). Suprasegmentals :Discourse intonation. In C. A. Chapelle(Ed.), The encyclopedia of applied linguistics (pp. 5437-5443), West Sussex: Wiley-Blackwell.

“discourse intonation” は現在2つのものを指すことが多い。1)談話の区切れなどを示す機能,2)話者間の情報の共有に基づいたピッチ変化を体系化したDavid Brazilによる談話の機能,の2つ。

Brazilのモデルはイギリスやアジア圏では広まったが,アメリカではそれほど影響力を持たなかった。native varietiesのみならずWorld EnglishesやL2 varietiesにもこのモデルを用いられている。Hallidayのモデルとは異なり,Brazilのモデルでは,イントネーションの選択に語用論的機能を付与するモデルを構築した。このモデルではイントネーションの構成要素が対話における情報・社会的な収束に直接的に貢献し,語用論的意図が共有される。アメリカ英語でのPierrehumbert and Hirschberg(1990)のモデルと同じく,全体としてのイントネーション曲線の形よりもむしろ曲線の特定の構成要素により意味が伝達されるもの,と言ってよい。

tone unit and tonic segment
トーンユニットという発話の区切りの中に,ピッチが大きく変化する卓立(prominent・あるいは強勢音節)がある。卓立は情報構造的には新情報である。
Q: What card did you play?
R1: //the KING of SPADES// (both the kind of face card and the suit are new information)
R2: //the KING of spades// (only the kind of face card is new information)
R3 : //the king of SPADES// (only the suit is new information)
(Brazil, 1997 pp.22-3)

key and termination
ピッチレベルに関するシステムがkeyとterminationである。ターンテイキングや話者間におけるピッチの相対的な高さのことである(high, mid, lowがある)。

tone system
ピッチの相対的な高さではなく,動きについて,上昇・下降・下降上昇・上昇下降・平坦の動きが音調核において見られること。発話の情報構造や文脈上の社会的価値を示す。下降系(下降,上昇下降)は,話者の想定として聞き手にとって新情報を提示しており,上昇系(上昇,下降上昇)は,聞き手にとって旧・共有情報を提示している 。平坦は新情報でも旧情報でもなく,単に言語サンプルを提示しているに過ぎない(ルーチンや無関心などはここからきている)。

pitch sequence and pitch concord
paratoneとも言われる,トーンユニットよりも大きな単位でのピッチの流れのこと。また,異なる話者の間でもピッチレベルの一致が見られることがある。このことをpitch concordと言う。

…とBrazil et al.(1980)やBrazil(1997)のまとめみたいな感じになったなぁ…。もう少し補足や修正など,後日行いたいとは思いますが,とりあえず,これであげておきます。

Life's too short

ちょっと前に観たのでメモ。

the officeやextraを気に入っている方であれば,足して2で割ったような今作も楽しめるかな。前作2つ同様,ドキュメンタリーを模した形式のドラマ,ということでモキュメンタリー(mockumentary)の形式を取っています。
Life's Too Short [DVD] [Import]

Willow…中学生ぐらいの時観たんだけどなぁ…。

【研究メモ】RPTを使ったもの【prosody関係】

RPT(Rapid Prosody Transcription)を使った研究ということで,Interspeech 2013という学会に参加した同僚が,以下の発表について紹介してくれました。それを備忘録代わりに簡単に紹介しておきます。

<概要>
 Smith, C. & Edmunds, P. (2013). Native English listeners’ perceptions of prosody in L1 and L2 reading. Proceedings of Interspeech 2013, Lyon, France, 235-238, 2013.

英語母語話者と非英語母語話者が発話した音声に対して,英語母語話者がRPTを行ったという発表です。

RPTは,なんかカッコいい感じだけど,要は「聞こえてきた音に対してスクリプトに印をつけるタスク」ということ。phrase boundaryには区切れ線を,prominenceには下線を入れる課題のことです。

聞いた音声資料は,the Rainbow Passageを英語母語話者12人(NS)と非英語母語話者(南米・スペイン語話者; ESL)12人による音読を録音したもの。それらをそれぞれ11人の英語母語話者が聞き,チャンクごと(phrase boundary)に区切れ線を入れ,prominenceに下線を引く課題を実施しました。

phrase boundaryについて,どこで境界線を引くかをスコア化して(b-score),聞き手の間の一致度をカッパ係数を用いて検証したところ,NSとESLのいずれも一致度が高かった。つまり,どちらの音声に対しても同じようなところで区切れ線を入れていたということです。ただし,ESLの方がNSに比べ多く区切られていたという点では異なります。

prominenceについては,どこで下線を引くかをスコア化して(p-score),聞き手の間の一致度を同じくカッパ係数を用いて検証したところ,NSとEFLのいずれも一致度は高かった(ただし,著者は一致度の数値に差があることに懸念を示していた)。 頻度を確認すると,NSの方にはESLよりも多くの下線を引いていることが分かった。これは,ESLの方で下線を引くのは聞き手にとって難しかったためではないかと述べていました。

<コメント>
区切りは多いのに,目立ちが少ない,というのがESLの英語の特徴ということになります。今回のESLは南米・スペイン語話者ということですが,そのL1の影響かもしれません。日本人英語学習者であれば,と考えますが,同じようなことにはなるのかもしれません。区切りが多く,ほぼ全ての内容語を強く・高く・長く読んでしまい,どこが目立つのか聞き手にうまく伝わらないということがあるのでは,と思います。この点,検証の可能性がありますね。

また,音読課題で用いたThe Rainbow Passageは,IDEA(International Dialects of English Archive)でも用いられているpassageです。

ちなみに, 私が参加しているプロジェクトでは,「英語母語話者がBuckeye corpusの音声を聞いてRPTを行ったもの(Cole et al., 2010)を,日本人英語学習者が行うとどうなるか」 を扱います。この論文で行ったものとは異なりますが,参考になりました。

【研究メモ】初心にかえる【イント話】

ずいぶん前の動画にはなりますが,Peter Roachがdiscourse intonationについて利点と欠点の両面から話をされた部分です。


ふと思い出して再度見てみました。

動画であげられていたdiscourse intonationの利点と欠点は次の通り。
<利点>
1)談話分析との関連
2)双方向のやりとりを観察
3)教育的利用が容易
4)他の英語アクセントへの適用が容易 (pとrというラベルを適用することが,という意味で,「上昇が…という意味」を適用するのではないということ)
<欠点>
1)他のイントネーション要素を捨象している
2)他の韻律要素を捨象している
3)他の英語アクセントについての研究がない
4)記述がややこしい(とは言え,動画の中ではTOBIよりはいいのでは,みたいな話をしていたけど)

欠点の1)と2)は深刻なのだけど,その辺をどう補うことができるか,といったところを考えつつ,教育的な活用ができるのではないかなぁというのがずーっと考えていることなんですが,どうしたもんかとまだまだ悩んでいます。

でも,David Brazilのdiscourse intonationは卒論からのおつきあいで,初心にかえることも必要だな,と。