2002.09.24(第7回日本英語音声学会全国大会の備忘録)

今回の研究大会の中でも一番大きな目的としては、今井邦彦先生の講演である「関連性からみたintonationとparalanguage」で あった。話手は伝達内容全てを言語化するわけではなく、聞き手はそれを推論してお互いに理解をしている点から、その推論過程において「関連性の原理」が機 能していることを指摘した。その「関連性の原理」が機能する上で、発話をどのように処理するかを手助けするものの一つ(手続が記号化されたもの)としてイ ントネーションがあると述べられた。これまでの「音調-意味」の分類(O’Connor and Arnold)における矛盾を解決する上で、下降調をデフォルトとし、上昇は「判断留保」であると設定した。こうしたイントネーションの記述を例を用いて 解説した。という感じが全体の概要になるでしょうか(まとめ下手で申し訳ありません)。
私が最も引っかかったのは、「これまでのイントネー ションへの接近法には矛盾が見られる」ため関連性理論による接近法を取った、という点である。果たして「矛盾」しているのであろうか、というのが私見であ る。実際、関連性理論に基づいた接近法を用いたとしても、これまでの「音調-意味」よりは広くは扱われているものの、ある種の中核的な意味を音調に付与し ている点は変わらないのではないかと感じる。下降調には初期設定的な意味を付与し、上昇調には判断留保の意味を付与するのは中核的意味なのではないであろ うか。つまり、関連性理論を用いた今井先生の接近法は、これまでの接近法の1段階階層が上になるにすぎないのではないか、ということである。まぁ重箱の隅 をつつくような指摘ではあるような気もしますが…。テイラー(1995)のように中核的意味を否定して、メタファーで処理しようとする方法もあるようです が、中核的意味の方が(教育的には)必要であると思われます。
さて、もう一つ私の興味を引いたのは、”Japanese learner’s emotional cognition and prosodic correlates of English intonation”という発表でした。というのも私の研究とかなり似ているからであります。英語母語話者によって感情を込めて発せられた発話を日本人 英語学習者がどのように認識するかを多肢選択方式によって判断するというものである。また、感情を込めて発した発話と感情を込めなかったものとの音響的比 較を行った(英語母語話者による発話)。前半部分の結果は、私の調査の結果と比較的近いものであった。”disbelief”、 “joy”、 “doubt” などは高い認識率を示しており、 “sarcasm”、 “anger” においては低い認識率であった。これは、私の調査における「驚きを表す」において高い認識率を示している点、「注意・警告する」において低い認識率であっ た、という点と近似しているなぁと感じました(万が一詳しくをお知りになりたい方は、publicationの2と10の論文をご参照下さい)。たまたまこの発表に来ていた学部生の方が実は私の調査の被験者で、「同じよ うなことをさせられたなぁ、と思って聞いてました」なんて言われました…。後半部分は、英語母語話者による感情を込めたものと込めていないものとの対比に よる分析ですが、なぜそれを行って提示したのかは分からなかったです。というのも、前半の認識調査で感情を込めていないものも提示しているとすれば、違い が出て、音声資料の違いによる認識の違いが分析できたかもしれないですが、それをしていないようでしたので、そこが残念でした。2つの別個の調査をしたか のように受け取れてしまったからです。
それから、質疑応答でやはり出たのが、音調だけが感情認識の要素ではないのではないか、なのになぜ単 文を提示したのかという点、感情の記述には問題はなかったのか、という点でした。どちらも自分にグサリと刺さるものなので心して聞いていましたが、やはり 納得する答えは得られませんでした。この点はずっと付きまとうと思いますのでこれからも考え続けなければならないと思います。私の調査では、前者に関して は、対話文を提示するという形を取り、可能な限り音調の違いによって意味が変化するものを選択することにしました(Brazil et al.(1980)とRoach(2000)の援用)。後者に関しては、どうしても恣意性が付きまとう感情の記述を避け、発話行為理論を援用し可能な限り の記述によってその点をクリアにしようとしました。このあたりをどう考えているのかを聞くことができればよりよかったのですが、時間もなかったし、発表後 に話を聞くこともできなかったのは残念でした。
もう一つ、興味深かった発表は、南條健助先生による「英語発音辞典として『研究社新英和大辞 典』第6版を読む」であった。『研究社新英和大辞典』(以下『新英和』)が英米の発音辞典と比較しても遜色がない点、さらには収録語数で上回っていること からそれらよりも上を行く可能性があることを指摘した上で、『新英和』に見られる改善可能な点を指摘する、という発表であった。
様々な最新の発音上の変化、あるいは表記上の変化等を踏まえ、『新英和』の改善可能性を探るものであった。最新の発音上の変化事情などを非常に興味深く聞きました。
methodological optionという言葉もキーワードとして残ったものの一つでした。(この点については、もう少し膨らませて後日書きたいと思います)(24.9.2002)