2004.03.08(広島CALL研究会の参加備忘録)

昨年の修了以来の広大。大学へ向かう道路が広くなってるところなんかで感慨…。と、そんなことは置いておいて、広島CALL研究会に参加してきた。
何はともあれ、玉井健先生によるワークショップ「シャドーイングとリスニングの関わりについての検討と授業への応用」 を目当てに参加したのだ。近年英語教育において、シャドーイングの重要性が声高に叫ばれ、「知らぬ間に」旗振り役のようになってしまっていた、と玉井先生 は語っていた。
そもそも同時通訳の訓練技法が中高大の英語教育において用いられる際、「シャドーイングは何に効き、どう用いればいい のか」という点について分かりやすく説明されていた。ワークショップの前半は、「シャドーイングとリスニングの関わり」を実証研究を幾つか紹介しながら説 明し、後半は実際のシャドーイングの指導法を体験する、という形式であった。
(前半)シャドーイングは教師、生徒の両方が向上の実感を伴っているにもかかわらず、聴解力テストのスコアには現れてこない。それでは、シャドーイングはどこに働きかけているのか?という疑問から、玉井先生はいくつかの実証研究を行っていた。
シャドーイングの指導前、指導後のリスニング力を検討したところ、習熟度下位群において急激な伸びが見られた。上位 群、中位群にはそれほどの伸びが見られないことから、シャドーイングの効果は、上位群、中位群が既に持っている能力部分に効いているのではないか、と推測 した。
その推測を基に、聴解過程におけるワーキングメモリの働きを検討した結果、シャドーイングは入力された情報に対しての 「音韻分析」のレベルに特に働きかけている、と考えられた。一方、いわゆるリスニングテストの類は、音韻分析や統語分析を経た後、「意味分析や文脈分析」 のレベルに焦点化されているものである、と考えられ、それであればシャドーイングとリスニングテストとの直接的な関連は少ないと考えても不思議ではない、 とされた。
では、シャドーイングと「音韻分析」のレベルとの関連はどのようになっているのか、という点について、発話速度、メモ リスパン、復唱力という観点から考察を加えた。メモリスパンに関しては、第二言語ということもあってか、特に変化は見られなかった。しかし、発話速度、復 唱力に関しては、指導前、指導後において向上が見られ、シャドーイングの効いている領域と考えられる。
では、発話速度や復唱力というのは何を意味するのか、というと、音韻の記憶の中に、英語の音韻構造(要素)が蓄積され ていることを示していると言えるであろう。特に、音声の中でもプロソディックな側面の情報が蓄積されていると言えそうである。シャドーイングがこうした側 面にタップしているということは、リスニング能力に対しても深く関わっていると主張していた(し、私も賛成です)。
学習者の実感としても、アンケート調査から、プロソディに関する改善がなされた、発話速度などの運動側面の改善がなさ れた、と実感している。さらには、結果として、リスニング自体への意識が改善されたと実感しているようである。(ここは質疑応答で、「聞き方に関する改 善」を大きく捉えるべきではないか、という質問があったが、私はこの項目はより大きな側面のものであると捉え、シャドーイングと「音韻分析」の観点からは 前者2つを、その結果として後者が成果として表れた、と理解したい)
(後半)前半での情報を基に、後半では具体的な指導法について説明がなされた。形態として、1)シャドーイング、2)ディレイド・シャドーイング、3)リテンション、4)リプロダクション、があるとされた。
1)シャドーイングにも、音声に意識をおいたプロソディ・シャドーイング、意味に意識をおいたコンテンツ・シャドーイ ングがあるとされ、慣れるまでは前者に集中させるのもよいとされた。さらには、頭の中でシャドーイングを行うサイレント・シャドーイングもこの中に入れら れた。2)は再生の開始を少しずらして行うものであり、上級者がクラスの中に存在する場合にはこれを適用して、難易を調整する方法もあるとされた。
3)は、始業時に教師が英語でスピーチをし、それをプレーズごとにリピートする、という活動が紹介された。オーラル・ディクテーション、リピーティングと実質上同じものであるとも説明された。4)は、一定量の談話を聞き、それと同等の内容を再生するもの、と説明された。
1)から4)へと順に、内容が重視され、再生の忠実度が下がっていることがうかがえる。
シャドーイングと併用される活動として、1)シンクロ・リーディング/パラレル・リーデ
ィング、2)スピード・リーディング、3)サイト・トランスレーション、4)サマライゼーション、があげられた。
1)は、音声のみでなく、テキストを見ながらのシャドーイングのことで、これならば多少速いものでもシャドーイングの 実施が可能になる、とのこと。2)はとにかく速く読む、という活動で、これよりも教材の実際のスピードが速い場合は1)に戻るなどの構音活動に時間を割く 方がよいとされた。3)は、フレーズごとに翻訳する活動である。4)は、(言語を問わず)内容の要約を行うことである。
これらの活動は、シャドウイングと同様に話題になっている、千田潤一氏らによるトレーニングと重なっていることが分かる。
留意点として、5つが挙げられた。それらは、1)情意的側面への配慮、2)タスクの単純化、3)スピードへの配慮、4)教材の性格を目的別に分類、5)パフォーマンスのフィードバック、である。
1)は、シャドーイングという活動が「聞きつつ再生する」というものであるため、特に初学者への配慮が必要ということ である。それに伴い、2)では、プロソディ・シャドーイングからコンテンツ・シャドーイングへというタスクの移行が考えられる。また、3)スピードに対し ても、学習者のレベルに応じて配慮が必要であるとした。とは言え、オーセンティックなものであることは強調されていた。5)のフィードバックについては、 特にプロソディックな側面への教師から、あるいは学習者同士のフィードバックは重要であると述べられた。
5)に関して、評価について話をされたのは、「チェックポイント法」とされるものである。原音声をどの程度再現できた かをチェックするもので、原文テキスト中70箇所程度のチェックポイントを決めておき、それらが多く再生できていればシャドーイングスキルが十分であると いうものである。これはあくまで、復唱能力を測定しており、意味理解を測定しているという類のものであることは押さえておかなければならない。
個人的に気になったのは、評価法としてプロソディックな側面をどう確立させるか、という点であった。ワークショップや 上のまとめから分かることは、プロソディックな側面の評価は、教師からのフィードバック、学習者同士のフィードバックによってなされる。具体的に「どのよ うに」となると、どうしても主観的な形になるのではないだろうか、と考えた。音声分析ソフトなどを使用して、原音と学習者との(相似的)一致度を見る、な どはできないだろうか、と考えてみたりもした。
うまくまとめたかどうかは甚だ怪しいですが、とりあえずのまとめとして記しておきました。(09.03.2004)

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